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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)5217号 判決

原告 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右指定代理人 福本勝洋

〈ほか一名〉

被告 鈴木慶昭

〈ほか一名〉

右訴訟代理人弁護士 大谷昌彦

主文

一  被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

二  被告らは、原告に対し、昭和六二年一一月一日から右建物明渡済まで各自一か月金一万〇四〇〇円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。

2  被告らは、昭和六二年一一月一日以前から本件建物を占有している。

3  本件建物の賃料(使用料)相当額は、一か月一万〇四〇〇円である。

よって、原告は、被告らに対し、所有権に基づき本件建物の明渡しを求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として本件建物占有開始後の昭和六二年一一月一日から本件建物明渡済まで一か月一万〇四〇〇円の割合による使用料相当損害金をそれぞれ支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  抗弁

1  鈴木義太郎(以下「義太郎」という。)は、昭和二三年九月一三日、原告から本件建物を賃借し、その引渡しを受けた。

2  被告慶昭の本件建物賃借権代襲相続

義太郎は、昭和五〇年に死亡した。鈴木栄は、義太郎の子であったところ、昭和四六年四月九日に死亡しており、被告鈴木慶昭(以下「被告慶昭」という。)は鈴木栄の子である。

3  被告鈴木正人(以下「被告正人」という。)は、被告慶昭の甥であって、同被告の承諾を得て本件建物に同居している。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1、2の事実は認める。

2  同3のうち、被告正人が被告慶昭の甥であることは認めるが、その余の事実は知らない。

五  再抗弁

1  本件建物は、東京都営住宅条例(昭和二六年東京都条例第一一二号、以下「都条例」という。)に基づき、原告が管理する都営住宅である。

2  都条例一四条の二は、都営住宅の使用権の承継について、「前条の規定にかかわらず次の各号の一に該当し、都営住宅の管理上支障がないと認める時は、都営住宅の使用権の承継を許可することができる。一 都営住宅の使用を承継しようとする者が、使用者の配偶者及び三親等内の血族又は姻族であって従前より当該都営住宅に居住しているものであるとき。二 都営住宅の使用を承継しようとする者が、第一五条第一号の規定により当該都営住宅に同居の許可を受けてから満二年以上居住している者であるとき。三 前各号のほか特別の事情があるとき。」と規定しており、これを公営住宅法及び都条例の趣旨・目的に照らして解釈すれば、都営住宅については、事業主体である知事の許可があってはじめてその使用権を取得するのであって、相続により当然に承継するといいうものではない。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁1の事実は認める。しかし、都条例一四条の二の規定は、一四条の規定の例外規定として付け加えられたものであるところ、同条は、使用権の譲渡、転貸を禁止した規定であり、相続による当然承継について規定したものではない。したがって、相続による当然承継の場合には、一四条の二の規定の適用はなく、一般法である民法の規定が適用される。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因事実、抗弁1、2の事実及び再抗弁1の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、相続による都営住宅の使用権の当然承継が認められるか否かについて判断する。

1  《証拠省略》によれば、都条例一四条の二は、再抗弁2のとおり規定しているところ、同条にいう「前条の規定」には、「使用者は、都営住宅を転貸し又はその使用権を譲渡することができない。」と定められていることが認められ、これによれば、都条例は、使用者が都営住宅を転貸し、又はその使用権を譲渡する場合の使用権の承継についてのみ規定し、相続による場合の承継については何ら規定しておらず、この点は一般法である民法の定めに委ねているかのようである。

2  しかし、都営住宅は、公営住宅法にいう公営住宅であることが明らかであるところ、同法は、「住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的」としており(一条)、そのために入居資格者を限定し(一七条)、政令で定める選考基準に従い、公正な方法で選考して入居者を決定しなければならないとしている(一八条)。そして、《証拠省略》によれば、都条例は、公営住宅法を受けて、都営住宅の使用申込者の資格を厳格に限定し(五条)、公募、抽選を原則とする使用者の選考基準・方法を規定している(六条以下)。

ところで、このような都営住宅について、相続による使用権の当然承継を認めるとすれば、相続により、入居資格のない者であっても都営住宅の使用権を承継してこれに居住することができることになるが、このような結果が右の各規定からも窺われる公営住宅法及び都条例の法意に副わないことは明らかである。したがって、公営住宅法及び都条例は、公営住宅である都営住宅の使用権の相続による当然承継を認めておらず、承継基準に従って知事の承継許可があったときのみその承継を認めているものと解するのが相当である。

三  被告慶昭は、都営住宅である本件建物の使用権について、従前の使用者からの相続を主張するのみで、知事の承継許可を受けたことを主張・立証しないから、本件建物について占有権原を認めることができないといわなければならない。したがって、被告慶昭の占有権原に依存する被告正人についても、本件建物の占有権原を認めることができない。

四  よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平手勇治)

〈以下省略〉

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